○星見町星見神社祭、大綱引き大会○
ここは、標先市(しべさきし)という都市にある、緑豊かな小さな町『星見町(ほしみちょう)』。
ここでは毎年、町を守って下さっている土地神様をお祀りする神社祭が行われる。 当日は、『天狗山(てんぐやま)』というこの町の大きな山を少し登ったところに建てられた神社の境内から、この町の中心を流れるこれまた大きな川『星見川(ほしみがわ)』の河川敷に向かってズラッと出店やら見世物小屋が立ち並ぶ。 住人たちは総出でこのお祭りに参加し、楽しみ尽くすのがこの町の習わしである。
神社では、町内会長主催で毎年様々なイベントが執り行われ、今年の目玉行事は『綱引き』。
星見町駅前通りに門を構えるこの町唯一の本屋さん『トラトラ屋』。
そこの虎獣人の店長が、現在このイベントの案内をキラキラした目で見つめている。
店長が思いっきり興味を持って行かれたのは、この綱引き大会の優勝賞品たる日本酒一升瓶である。
日本酒大好き店長は、結構力自慢なのでコレに参加して優勝したい。 それくらい、商品として町内会長が進呈したその日本酒は希少な銘柄だった。
さっそく従業員の男性陣に声をかけてみるが、返答は全員「NO」。
上半身裸で参加するという条件が、どうやらお気に召さないらしい。 若者パネェ。
しょんぼり店長は、致し方なしと胸ポケットの携帯電話を取り出した。
お友達というものが全くいないロンリータイガーの店長は、助っ人として最近ちょっと仲良くさせて頂いている方々に声をかけることとしたのだ。
比較的、心臓は緊張で破裂寸前なほどのギグを奏でている。
さて、そんな訳でお祭り当日。
ミラクル顕現!!! なんと、声をかけた全員がきっちりと集まってくれました。
店長のテンションはハイパーマックスと言っても過言ではない。
「皆さん、どうもありがとです! 自分と一緒に優勝目指して頑張りましょう!! 特にタンさん! 期待してますよっ!!」(ガシッ)
参加したメンツの中でも明らかにガタイの出来が違う、武闘家獅子獣人・タン師範の手をしっかと握る!
彼の営む道場は店長の住むマンションとはご近所で、毎朝挨拶を交わす程度の間柄だった彼に電話をかけた自分に、店長はこっそり賞賛を与えた。
実は内緒のお話なのだが、このタン師範、店長にこっそりホの字だったりする。
「! ……わ、私が参加するのは反則に近いのではないですかな……?」
「それを言うなら、俺この町内会の住人じゃないっすよ……?」
目深に帽子をかぶった馬獣人が、不安そうに声を上げる。
こちらは書店・トラトラ屋と契約している運送会社『飛脚便(ひきゃくびん)』の従業員、茶道寺(さどうじ)さん。
トラトラ屋がある地区担当で、店長とはちょっとした趣味が合い、最近親しく話をするようになった若者だ。
細身だが、さすが力仕事の運送業。 こちらもなかなか良い身体をしている。
「あ、大丈夫大丈夫、ここの町内会アバウトだから。 茶道寺さんも楽しんでいって! ところでナギさん、意外ですね、そういう格好。 てっきりスーツかと」
店長が話を振ったのは、狼獣人のナギさん。
本名不明、職業不明の、危険な香りのワイルドさん。 一度『殺し屋』と本人から説明されたが、その後大笑いされたので真相は不明ちゃん。
普段はパリっとしたスーツを着こなし、カフェでコーヒーを飲んでいるため、こういう私服姿は初めて見たのだ。
スーツ姿だとよくわからなかったが、こちらもかなりイイ身体をしていらっしゃる(胸と肩の傷にはあえてノータッチだ!)。
「……仕事と同じ格好出来るか……。 まったく、今度ディナー奢れよ?」
不機嫌そうかな応対をしているが、口の端をクイッと上げて笑顔を見せる。
どうやらやる気になってくれているらしい(やる気が殺る気じゃないことをこっそり願っておこう、と店長は思った)。
さて、そんな物凄いキャラチャンポンの店長チーム、その実力は如何にと思ったら……
このメンツが強い強い!! メチャクチャ強い!!! 助っ人三名が強いのもあるが、店長自身も実はかなりの腕力だった!
苦戦することもなく、あっさりと決勝へと駒を進める!
決勝戦を見ようと集まった観衆の中、町内会長から決勝戦の相手の発表が行われる。
そう、トーナメント方式で上がってきたのだが、本来の『決勝』に当たる2チームの決戦は『準決勝』とされていたのだ。
優勝賞品をめぐる最後の決戦相手は、今の今まで秘密とされてきたのだ。
これには会場もどういう趣向が隠されているのか、期待の視線を会長に向ける!
「では登場していただきましょう、どうぞ!!」
まぁ特別ゲストと言っても、格闘家かお相撲さん?くらいに構えていた店長は、思いっきり度肝を抜かれた!!!
バァーーーン!!!
「神様じゃねぇか!!!!!」
はたして、店長の野望やいかに…!