新郷中佐と戦慄夏祭り・Q


6月24日(水) 午前9時

休日の店長さん。
本日は茶道寺さんがお仕事という事で、皆で集まって飲み会をするのは夕方からである。

折角の休日なので夕方までどこかドライブでも行こうか、そんな事を考えながらクローゼットを開けると、掛けてある服の奥に一振りの日本刀が見えた。

父からの誕生日プレゼントの「模造刀」でる。

しかし「模造刀」とはいえ舞台や映画で実際に使うような代物である。 パッと見「本物」にしか見えない。
手に取るとその静かな重みにも驚く。
木製のものとは明らかに違う重さ。 しかし重過ぎず、振り回すのに丁度良い重さなのだ。

スッと鞘から引き抜くと、メッキ加工された刀身が姿を表す。
正直こういったものを手にとって心が躍らない男子がいるだろうか?
無論店長も例外ではなかった。

周りのプラモデルに当たらないよう気をつけながら、刀を数回振ってみる。 そしてスッとポーズを決めたとき、その姿がクローゼットの鏡に映った。


いい…!!!

突然ガタン!と玄関の方で音がして、店長は失神しそうなくらいに驚いた!
見てみると、郵便受けに回覧板が入っていた。
ホッと胸を撫で下ろして回覧板を開いてみると、町内会長直筆のチラシが目に入る。

星見神社祭 7月5日(日)開催!  出店者大募集中!!


同日 午後6時

「あ、あの…7月5日のお祭なんですが、今年は自分『見世物小屋』でも出してみようかと思ってるんですけど…誰か、その…手伝ってくださいませんか…?」


「ご安心下さい! 不肖私が全身全霊を持ってお手伝いいたしましょう!!!」
「ハイハイッ!! 俺、有給とか使えるんで全然手伝えるっす!!!」
「…まぁお前一人じゃ何かと不安だからな。 手伝ってやるよ。」

三者三様のアピールで参加表明するトラトラチームの面々でした(笑)

「ところで虎鉄さん、見世物小屋って何するんすか?」

待ってましたとばかりに表情をパーっと明るくする店長!
そう、店長は皆で「演劇」をやりたかったのだ。 お祭まで時間はあまり無いが、このメンツならかなり面白いものが作れそうな気がしたからだ。

演劇!! 演劇!!!

そう言いかけたその時!!


「お化け屋敷がいいー!!!」

スパーン!と襖を開いて双子登場!!!

「今のお話、私も参加させて頂けませんか…?」
源司さんが恥ずかしそうにしながら双子の後ろから姿を現せた。

「源司さん! 町内会長との打ち合わせ、終わったんですか?」
「えぇ。」
「て、お祭の主役じゃないですか、源司さん!! 出店に参加なんて…」
「いえいえ、お祭の主役はあくまで皆さんですから。 私はまぁお祭の大義名分というか、きっかけというか、テレビで言うところのキューみたいなものですよ。 それに、私が参加する事で皆さんに楽しんで頂けるのでしたら、そちらの方が嬉しいですしね。」

「源司さん…」
店長、ちょっと感動してしまう。

「ねぇ、こてっち!! お化け屋敷お化け屋敷!!」

チッ、意図的にシカトしていたのに…

「え? ヤダよ。 自分、もっと他の事を…」
そう言いかけた時、

「…ひょっとしてこてっち…」


「怖いの?」

むっかぁあああああああああああああ!!!!!

「いいよ!! わかったよ!!! やってやろうじゃねぇかよ、お化け屋敷!!!!!」


6月27日(土) 午後8時

仕事を終えた店長、双子に呼ばれて星見神社のお祭会場予定地へ。
そしてそこで店長は、自分の決定を大きく反省する事となる。


うわぁああああああああああああ…

小屋の中に入った店長が数滴失禁した事は言うまでもあるまい。


6月28日(日) −−時  場所:『無限の箱庭』

「おぉ、そうそう。 そこで一気にドーンと落とす訳よ。 うん? あぁ、コンニャク以外でも別にいいぞ。 手前の罠は見た目がアホっぽければアホっぽいほどいいな。 その方が後が引き立つからな。 ハハ、いいっていいって。 おぉ、んじゃな。」

ピッ

「鷹人君、誰と電話してたの…?」
「ん? あぁ、例の双子の竜神だよ。 お化け屋敷のことが知りたかったんだってよ。 で、肝試しのほうが怖いんじゃねぇかって話してたんだよ」
「そ、そう…」

何やら状況がサッパリ掴めない最高神・睦月君でした。


同日 午前10時

今日はお休みの店長。 再び双子に呼ばれて例のお化け屋敷小屋へ。
気が重かったものの、今は午前中ということもあって周りが明るいのが唯一の救いである。

到着すると、双子が待ってましたとばかりに小屋の中へと引きずり込む!!
中はやっぱり薄暗く、もはや半泣き状態の店長。
道を中腹ぐらいまで来たところで、茂みの奥、林のように木が生い茂ったさらに奥へと入っていく。
と、そこでようやく小屋の壁に行き当たり、そこにはドアが付いていた。

ここが自分たちが着替えなどを用意する「準備室」になっているようだ。 こういうところは本当にこの双子には感心する。 良く出来ているなぁ。

パッとドアを開け、「みんな、おっ待たせ〜!!」と、双子のどちらかが声を上げる。
店長も手を引っ張られるまま部屋に入ってみると…


一体どんなミラクルロマンス!!!?

顔を真っ赤にしている店長にお構いなく、双子はどんどん進行する。

「ささ、こてっち! 一人一人の尻尾を触ってって!!」
ハァ!!?
何が何やらサッパリだが、既にこのお化け屋敷の制作進行に関しては全てパイドラコンビに任せてある。 これにも何か考えがあるのだろう…。
一人一人に謝罪をしながら尻尾を触らせてもらう。

源司さんのぶっとい、ちょっと皮膚が固めの尻尾。
ナギさんの毛質の硬い、ブンブン動くワサワサ尻尾。
幸志朗さんの体毛の薄い、ヒュンッと撓(しな)る精悍尻尾。
愁哉君の指の間を通り抜ける、何とも言えないサラサラ尻尾。

皆例外無く触った瞬間小さく「んっ…」と声を漏らしたのが、可愛いと言うか役得と言うか…。

「じゃ、最後にこてっち。 自分の尻尾触ってー」


良くわからないが、とりあえず尻尾を前にヒュンと回してモフモフしてみる。
4人がこの光景に鼻血が出そうなのをガマンしている事など店長は知る由も無い。

「オッケー! じゃあこてっち、皆の中で誰の尻尾が一番触り心地よかった?」
ここまできても何が何やらなのだが、とりあえず全員の感触を思い出す。

全員が固唾を呑んで店長を見る。

「…愁哉君かな」

3人の表情が一気に暗くなる! そして逆に一人の表情がパーっと明るくなった!!

「いやったぁああああああああああああああああああああああ!!!!!」

一人の目立たなかった男が脚光を浴びた瞬間だった!!!
それが何の選考会だったのか、全員が知っていれば4人の態度は真逆だったのだろうが…。


7月5日(日) 午後8時

星見神社の裏の林がパッと一瞬明るくなる。 
林を照らした赤い光が消えると、そこからガサガサと一人の獣人が出てきた。

源司である。
いや、一見「源司」にしか見えないのだが、額に大きなバッテン傷があり、片方の角が折れている。

そう、源司の祖先、現最高神が一人「御堂 樹」である。

「お化け屋敷のお礼に」と双子から招待を受けた最高神様達であったが、樹だけが留守番を言い渡されたのだ。 
理由は簡単、このお祭の主役と勘違いされるからだ。
樹以外の3人によって強固に封じられた彼らの居住空間「無限の箱庭」。 だがそれも最強イタズラっ子・樹の手にかかっては数分ともちこたえられなかった…!

が、出現場所が良くなかった。

林から出た瞬間、一人の猪獣人が声をかけてきた。

「竜神様!!? 一体そんなところで何をやっておられるのですか!? さあ、こちらでどうぞスピーチの準備を!」

町内会長であるその猪獣人からマイクを手渡され、神社の前のスピーチ台に立たされてしまった!
少し悩みはしたものの、こうなった以上、可愛い子孫の顔に泥を塗らないようまともな事でも言ってみるか…

ファァアアアン! というマイクのハウリング音に境内にいた全員が竜神様を見た。

「んんっ、あー、皆さん。 本日は星見神社祭りに参加いただきありがとう。」

いつもと違う雰囲気に、町内会長が首をかしげる。

「ここで一つ、神様というものについて話しておこうと思います。 神様というのは、そう、一つの職業なのです。 『皆さんの生活を守る』という職務を負った、一つの職業でしかないのです。 大変な力も、全てはこの職を全うする為のものでしかありません。 ですから、必要以上に敬ったり、崇拝したりする必要など無いのです。 ただ、もし感謝をして下さるのでしたら、どうぞ『笑顔』でいてください。 それが皆さんが『幸せ』である証明になり、私達がちゃんと職務を全う出来ている証にもなるのです。 そしてその事が、何よりも私達は嬉しいのです。
ですからどうぞ、このお祭も楽しんでください。 神社祭の主役は『神様』ではなく、そう、皆さんなのです。 皆さんが喜び楽しんでくださる事で、私達は英気を養い、また職務に安心して就けるのです。 どうぞ皆さんがこの町で、いつまでも笑顔でいられますよう…」

そこまで話したところで、階段の向こうから上ってくる頭が見えた。

間違いない、ヘルメットである!! しかも見覚えのあるデザイン…!

いかぁあああああああああああん!!!!!

仲間の一人だ!! 箱庭から抜け出してこんな所にいることが知れれば、一体どんな目に遭うことか!! いや、正確に言えば逆か!
「どんな目にも遭わせてもらえなくなる」だ!!!(深いな、神様)

「皆さんが笑顔でいられることを心より祈っておりますぞー!!!!!」

そう言うとマイクを会長に投げ渡し、神社の影へと走り去ってしまった!
そしてパッと赤い光が見えたかと思うと、シーンと静まり返ってしまった…。

境内をキョロキョロとヘルメットの大男は見回した。
「…樹の声が聞こえたと思ったのだが…あ、源司君の方だったか…」
その大男・最高神クロム=グレイは、両手に樹へのお土産をいっぱい持ったまま、トラトラチームの面々と入れ違いに境内を後にした。
双子と合流すれば、彼らが経営する旅館へ樹も連れて行ってあげられる。 それで機嫌を直してくれればよいのだが…。

彼の純心と優しさは、いつも樹を泣かせてしまうのでした。


7月11日(土) 午前11時30分

「おーい、大河原ー!!」

標先中央駅の改札口で、新郷中佐は大きく腕を振った。
お祭から数日たったこの日、二人は休みが合い、一緒に食事をすることとしたのだ。

食事は新郷の奢りとなった。 高校時代のせめてもの罪滅ぼしと思ってくれ、と言う事だったので店長も気が引けながらも承諾した。

入ったのはイタリアンレストランだ。
美味しい店などサッパリ知らない中佐は、妹の美咲に訊いてこの店を選んだのだ。
メニューを開くと、店長は歓声を上げた。 どれも本当に美味しそうなのだ。

「ねぇ新郷、本当に奢ってもらっちゃっていいの? 俺、メチャメチャ頼んじゃうよ??」

メニューの上からチラッとだけ顔を出して訊く級友に、笑顔で返す新郷中佐。
さて、頼んだメニューが届くまで何を話そうか…。

ふと、夢の事を思い出した。
そして夢の中の大河原と、現実で再会した彼がダブった。

「そういえば大河原、お化け屋敷で再会した時、お前…泣いてなかったっけ?」

ギクッ。

「あれ、師範のメイクが怖くて泣いてたのか? じゃないよな。」
「幸志朗さんは俺の異常に感付いて見に来てくれたんだよ。 配置が俺の次だったからさ」
「じゃあ何で泣いてたんだ?」

「…想像してみろよ…あの真っ暗な茂みの中、一人ぼっちでずっと誰かが来るのを待ってるんだぞ? しかも俺の手前のトラップが酷すぎて凄い悲鳴が飛び交うんだぞ!!? こ…怖がらずになどいられるものか…!!!」

顔を思いっきり近づけて力説する大河原。 そういえば俺達も悲鳴上げたっけ…。
だがしかし、ぶっちゃけて言おう。 
暗闇の中、目が爛々と輝くお前の顔を目撃した方が遥かに怖いと思うぜ?


テーブルにズラリと並べられたメニューを、嬉しそうに次々と食べていく大河原。

ピッツァマルゲリータ、4種のチーズときのこのピッツァ、チリトマトのカルボナーラ、特製チーズリゾット、ジャガイモのニョッキ、チキンの香草焼き…

「新郷のソレ、美味しい?」

これだけ頼んでおいて、まだ俺のメニューにまで興味を持つか!!!
ちなみに新郷中佐のは「アサリのクラムチャウダー仕立のスープスパゲッティ」である。

「食うか…?」

そう訊いてみると、大河原はいいの!!?と大喜びしてフォークに軽くパスタを絡めて口に運んだ。
夢の中ではお互いの昼飯を食べ合いしていたが、美味しいを連発している彼からその食べ物の一部をもらう気には何となくならなかった…。


やはり夢と現実は少し違うみたいだ。


ふと、もう一つ大河原に訊いておきたい事があったのを思い出した。
「そういや大河原、森の中に竜神様連れ込んで、お前何したんだ…?」

地味にずっと気になっていたことだ。 これだけはとりあえず訊いておきたい。

ピッツァを口に運んでいた手を止め、少し考える素振りを見せてから、彼は一言だけ口にした。

「内緒」


同日 午後0時  新郷宅

冷やしラーメンを作って、一人録画した「こてパパドラマ」を見ながらくつろいでいると、ふと美咲は当時の、お化け屋敷での出来事を思い出した。
兄について、大河原さんに変な誤解を招く発言をしてしまったあの時、確か兄がお世話になっている道場の師範さんも一緒にいたのではなかったか…?

もしかしたら、兄について師範さんまで変な誤解をしてしまっているかもしれない!!

早速電話を取り、師範へ連絡を入れる。

「もしもし? タン師範さんですか? 私、そちらでいつもお世話になっております、新郷の妹の美咲と申します」


美咲ちゃん爆弾投下(兄の本日の予定暴露)まで、残り1分



同日 午後0時40分

運ばれてきたメニューの殆どをあっさり完食してしまった大河原。
最後の一皿、パスタの残りをフォークにクルリと巻いて、美味しそうに口に運ぶ。

「なぁ…大河原」
「?」

「お前…」

「太りすぎじゃないか…?」



カランカラン
「ありがとうございましたー」

「そ、そんなに太ってるかなぁ…? メタボ体系なのは認めるけど…いくらなんでも太りすぎまでは…」
「いやいや、そもそもお前、高校時代腹筋割れてたじゃないか。 何でそんなモフモフ体型を売りにしちゃってるんだよ? 昔の方が絶対格好良かったって!」
「そ…そうかなぁ…」

「そうだなぁ…ダイエットでもしてみようかなぁ」

溜息。

「でもなぁ…食事制限とか、辛いよなぁ…。 食事を制限するなんて、人生の楽しみの13分の9は無駄にしている気がするんだよなぁ…」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「…新郷?」


「新郷ぉおおおおおおおおおおお!!!!?」

「どうしたんだ新郷!! 一体どんな悪漢に何をされてしまったんだ!!!?」
「な…何が何やら…って、お、おい」

新郷に服を着せてあげると、そのまま彼を背中に乗せた。

「ちょ、お、大河原…」
「ホラ、けが人は黙った黙った! このまま俺の家に行くぞ? 怪我の手当てしなきゃ」
「お…大河原の家…い、いいのか?」

「当たり前だろ? 俺達、友達じゃんか。 何ならそのまま今晩泊まっていけよ。」




同日 午後3時

町内会長の家での話し合いがようやく一区切り付いた。
普段なら2,30分あれば済むはずが、昼過ぎから始めて今までかかってしまった。

話し合いがここまで長引いてしまったのには訳があった。
いつもなら今回の祭にかかった費用を源司さんが確認して、それで終わりだったのだが…

今回、急に源司さんがこの費用の半分を負担すると言い出したのだ。

これには会長、度肝を抜かれた!
土地神様をお祀りする行事で、その費用を神様自身が負担するなどありえない話だからである。
何とかこの異常な提案を断ろうと四苦八苦したが、当の竜神様はガンとしてこの意見を曲げようとしてくれない。

結局、町内会長が折れるしかなかったのである。

「しかし竜神様…土地神様自らが費用を負担するなど、聞いたことがありませんよ…?」
「『前例が無い』と『やらない』はイコールではないでしょう?」

そう言う竜神様の表情を、町内会長は驚きの目で見ていた。
竜神様は、今まで見たことも無いような、優しい笑顔を浮かべていたのである。


「源司さん」
7月5日(日) 午後7時55分

店長は、ハッキリと怒っていた。

「つまり、あれは自分の実際の過去の出来事だった訳ですか?」
「え、えぇ…まぁ…」

源司さんも流石に焦っていた。 ここまで怒りを買うとは思ってなかったのだ。

「わかりました、虎鉄さん! お詫びに一肌脱ぎましょう!!!」

すっくと立ち上がると、バッと勢いよく全てを脱いだ!! 茶道寺さんの帽子も無いから完全丸出し!!! しかも元気に上下させる始末!!

が。

店長は無言だった。

源司さんの頭から血の気が引いていく。
どうやら、そう、どうやら「本気の本気」で怒ってるらしい…


このまま  嫌われてしまったらどうしよう


ドクン!

その言葉が頭をよぎった時、心臓が信じられないくらいの音を出した。
そして心臓は、今まで無かったほどの早鐘を打ち始めた。

自分は、他の神々とは少し違う、そういう自覚があった。
だが、やはり自分にもあったのだ。

神としての傲慢さが。

本気で怒られるはずが無い。 嫌われるはずが無い。
そういう傲慢さが、心のどこかにあったのだ。

謝らなければ   許してもらわなければ  私は    私は

嫌われてしまう

「あ…」

口を開きかけた時、店長が小さく息を漏らした。
溜息…? いや、何か…
 
俯いて息を漏らした店長は、顔を上げるともう怒っていなかったのだ。

「…もしかしたら、源司さんのおかげだったのかも知れませんね」

「……え…?」

「新郷と仲良くなれたのも、それに…もしかしたら大ちゃんも」
「大ちゃん…?」

「きっかけは、どちらもあの修学旅行だった気がするんです。 だから…」
「…だから…?」
「ありがとう…源司さん」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「でも! 自分に勝手に何か力を使うのはもうやめてくださいよ!!」
「…は、はい…」
「じゃ、約束してくださいね。 俺に勝手に変な力を使わないって。 はい。」
右手の小指を差し出す。

「? あ、あの…」
「あり、知りませんか? 指きりげんまん
「い、いえ…知ってはいますが…」
「じゃあ、はい」

そう言うと、源司さんの小指に自分の小指を絡めた。

「指きりげんまん 嘘ついたら針千本のーます」


顔が赤くなるのを止められなかった。


それは、生まれてはじめての「約束」だったのだ。

誰が思うだろう。 神と「約束」を交わそうなどと。
「約束」とは、同等の立場の者同士がするものだ。 同等の責務と、同等の罰則を互いが背負う契約だ。

誰が思ってくれるだろう。 私と、指切りをしようなどと…

きっとこの嬉しさは、永遠に誰にも理解されないだろう
でも私は、本当に嬉しかったのですよ。 君が、私と約束をしてくれたことが。

本当に   涙が出そうになるくらい


そして源司さんは、この約束を一生守り抜こうと心に誓いました。
同日 午後8時10分

「大河原…重っ!!! そ、そうだ竜神様!! 何か力を使って大河原を軽く出来ませんか!?」


タイミングはちょっと悪かったですが(笑)



おしまい。


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