新郷中佐と戦慄夏祭り・破


…あぁ、またこの夢だ



高校の教室、俺はいつものように仲間達と他愛も無い話をしている。
遠く離れた窓側の席で、一人ポツンと机で寝ている大河原を横目に見ながら…。

話しかけたい。 話をして、自分の非を謝りたい。 そして…

そして…友達になりたい

だが結局自分は彼に話しかけることができず、悔しさと情けなさの中で目を覚ます。

今日も同じだ。
やっぱり俺は

「…んごう…!」

今日もお前に声を…

「…しんごう…!!」

ん…? 何で大河原の方から俺に声を…?

「新郷!!!」

うわっ!!!!!

意識を急に戻されて、僅かにパニックになる

「だ、大丈夫? 新郷…?」


気が付くと、心配そうな表情で覗き込む大河原が目に入った。



一緒に凄いものも視界に入ってしまったが…

そうか、俺…師範の殺気に当てられて…気を失ったのか…

しかし、良くわからない。
俺は、いつ師範の地雷を踏んだのだ…?

「…何か親近感沸いちゃうなぁ」
少し頬を染めながら大河原が言う

「? 何がだ??」
「だって新郷、幸志朗さんの格好見て気絶しちゃったんでしょ? アレ、リアルすぎるよね〜」

大河原は笑っていた。 ちょっと待て…「幸志朗さん」

「俺も最初あの格好見たとき、失禁しそうになったもん。 でも幸志朗さんって、見た目は怖いけど凄い優しい、面白い方なんだよー? ねぇ?」

「アレ、でもさっき二人は知り合いみたいな話してなかったっけ??」

…間違いない…!

合点がいった。 そうー
師範が言ってた「大切な友人」とは大河原だ!!!(そういえば看板、だった)
そして、美咲の発言から、師範にとって今の俺は…

大切な友人に手を出そうとしているホモ野郎!

という事になっているのだ!! 間違いねぇ、地雷コレだよ!!!!!

「あ…」

「おぉーい、キバトラー!!」

「そろそろ仕舞いにしようぜ〜、俺腹へっちまったよ」
「私もそろそろ神社の方へスピーチに行きませんと」
「シッポ痛いっす…」

いきなり出鼻くじかれたよ!!!!!
まだ一文字しか発してないのに!!!

「! すいません、もうそんな時間でしたか!?」

驚いた大河原が三人に駆け寄っていく。
「ナギさん! もう〜、怖すぎですよー!」  
「源司さん、今日はどうもありがとうございましたー!」  
「愁哉君、シッポ大丈夫?」 
「…あり、波威流と弩来波は? あ、片付け?」
三人に楽しそうに話しかけていく。 

新郷は起き上がると、その光景を見てほんの少し、肩の力が抜けた。
口元に、僅かに笑みがこぼれる。

そっか…大河原、
今は友達、いるんだな


気が付くと、横に師範が立っていた。

「君は、その…す、好きなのかね? 店長さんの事が…」

店長さん…? そういえばこのお化け屋敷、「トラトラ店長の」って…
なるほど、ようやくパズルのピースが揃ったようだ

「ご安心下さい、師範。 妹の先程の発言は単なる思い違いです」

師範と話をしながら、その目は皆と笑っている大河原を見ている

「大河原とは、その…友人になりたいだけです。 手を出すなどといった不埒なものではありませんゆえ…」


「本当だろうね?」

「…は、はい………」

フム、そう小さく言うと、師範の殺気もかなり薄らいだ…ように思えた

「ん? 何だそいつ、オッサンの知り合いだったのか?」

ナギが師範と話をしている新郷の存在にようやく気が付き、声を上げた。
その問いに答えたのは、師範ではなく店長だった。

「彼は自分の高校時代のクラスメイトで…えと、その…」


「と、友達の新郷って言います!!」

そう言えた事、そう言ってくれた事がお互いに嬉しかった

「へぇー、…あぁ! じゃあさっきのツレは彼女じゃなくて妹か

ナギがふとそんな事を言った。(役を演じながらも、ちゃんと色々見ているらしい)
と、そこでこの場にいる数人に「?」マークが浮かんだ。 それが真っ先に「!」に変わったのは店長だ!

待て…待て待て……よぉく思い出せ〜


「それから今『鬼河原』って言ったヤツ、前に出て来い。 ぶっ殺してやる」


「ちなみに私の耳は誰が『鬼河原』と言ったか聞き分けている。」


「あぁ、それと『鬼河原』って言った貴様、来月の妹の誕生日、楽しみだな?」

ギギギギャァアアアアアアアアス!!!!!

ナ、ナギさんだけ新郷を見分けてる!!!

「ちょっ!!!!!」

「うわっ!!! な、何だよ!!?」

いきなりの店長のゼロ距離攻撃に驚くナギ!!

「だ、駄目ですよ!! ナギさん達は実際には新郷の事知らないはずなんですから!!!」
「は…はぁ??」
「だから!! あの修学旅行の経験は、あくまで自分の記憶の中だけで起こった出来事で…」

「なぁ大河原…」
突然の新郷の問いかけにビクッとする店長!

「な! なに…新郷?」
「そちらの御友人、『ナギ』さんって言うのか?」

「? …う、うん…そうだけど…?」
「じゃあやっぱりあの時の彼なのか?」
「? あの時って…?」

「ホラ、高校の修学旅行の前日に、お前の知り合い三人転校してきただろ? 馬獣人の名前は良く覚えてないし獅子獣人は名乗ってさえくれなかったが、確か狼獣人は偽名だが『ナギ』とか何とか…」


「はーい、源司さん。 向こうでお話しましょうねー」

何も、悲鳴すら上げることも出来ず、神様が引き摺られていった。

そして、数分後ー


何があった神様!!?

何をした大河原!!!!!?

全く現状が把握できない新郷だが、一つだけ判った事があった。

大河原は、今も昔もマジパネェ


源司さんへの(永遠に謎の)お仕置きタイムの所為で、スピーチの時間に少し遅れてしまった。 全員駆け足で神社へ向かう!
道中店長はしきりに源司さんに謝ったが、源司さんは頬を赤く染めながら「お気になさらずに」と笑っていた。
が、神社に到着すると、その表情から笑みが消えた。 怒った訳ではない、きょとんとしたのだ。

てっきり皆イライラしながら待っているのかと思ったのだが、境内は閑散とし、スピーチ台が既に片付けられ初めていた。

片付けの指揮をしていた町内会長がこちらに気付いて駆け寄ってきた。
「あぁ、どうもお疲れ様でした!」
「…いや、まぁお化け屋敷のことはとりあえず置いておいてですな…私のスピーチは?」
「いやぁ! ご立派でしたよ!! ここ数年では一番、こう…威厳と風格に満ち溢れたスピーチでしたなぁ!! ワタクシ、感激いたしました!!!」

…?

「いや、私はまだ何も…」
「おや? そういえば先程のお化けメイクはもうお取りになられたのですか? しかし凄いものですなぁ! 一体どうやっておったのですか? 額には十字の傷か深々と入ってましたし、ツノは片方折れているようにしか見えませんでしたし」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

全く話がつかめない一同。
「源司さん、これは一体…??」
「フム、どうやら本当に起こってしまったようですな」

「心霊現象が」


店長の意識は、完全にブラックアウトした


目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入った。
ここは、師範の道場の「大部屋」だ。 いつも宴会をさせてもらっている部屋だ。

頭のバンダナが外され、額には濡らしたタオルが乗せてあった。
自分が気絶してしまった事を思い出す。 皆でここまで運んでくれたのだろうか?

そういえば、自分のハゲが治っていることに皆は気付いただろうか?
節分の時にも一度治っているところを見られているはずだが、あの時も意識を失って皆の反応を知らずじまいだ。
一番驚いたのは、実際にハゲを見ているナギさんだろうけど、源司さんがフォローしてくれたのかな…?
まぁ自慢とかしたかったわけでもないし別にいいけど、皆が驚く姿はちょっと見たかったなー。

起き上がって廊下に出ると、普段は行かない練習場の方に人の気配がした。
こういう時、「獣寄り」は便利だと思う。
そちらに歩いて行くと、練習場の手前の部屋から声が聞こえた。

「…美咲か?」

新郷…?


気を失った大河原を、全員で何とか師範の道場まで運んだ(重い重い…)。
竜神様がいるのだからもっと簡単に移動出来ると思ったのだが、何故か神様の力を一切使おうとしない為、結局全員で手足や胴体を持って運ぶこととなった。
大河原が起きるまで帰るつもりは無かったので、待つ間だけ師範に手合わせ願ったのだが…畳に死ぬほど叩きつけられてしまった。 やはり、まだまだあの方には遠く及ばないのだな…。

「湯を浴びてくる」と師範が出て行ってしまったので自分も着替えようとロッカー部屋に行くと、丁度浴衣に入れていた携帯が鳴っていた。

「もしもし…美咲か?」

妹の美咲は、あまりにも兄の帰りが遅いので少し心配していたようだ。 大河原氏が実は凄いマニアックな男で、兄が乙女の口からは到底言えない様な目に遭っているのではないかと…

「お前なぁ…そもそも一体どこからそういう発想が出てきたんだ?」
「何が?」
「ホラ、俺が大河原に惚れてるってヤツだよ。 兄ちゃんそれでエライ目に…」
「あれ? 違うの??」
「違うよ。」
「だってお兄ちゃん、お風呂とかでもよく大河原さんの名前口にしてたじゃない?」

…俺、声に出してしまっていたのか…

「高校のアルバムを見て溜息つく事もあったし、よっぽど大河原さんの事気にしてるんだなーって。 で、今日やっとその理由がわかったと思ってスッキリしたんだけど」
「何がだよ?」
「だってお兄ちゃん、昔っから石蔵鉄志さんの大大大ファンじゃない?」
「…なんでそこで石蔵鉄志が出てくるんだ?」
「え、だって…大河原さんって石蔵さんの息子さんでしょ?」

妹・美咲、本日2発目の爆弾投下!!!

「ハハ…何言ってるんだよ美咲。 いくら同じ虎獣人だからって…」
「あれ…お兄ちゃん、知らなかっ……あ!!

ここでようやく美咲ちゃん、店長のボディラングエッジの意味に気付いた!!!

「あ、うん、ウソウソ。 うん、全然違った。 お父さんとか全然知らないし」

ウソが大の苦手の美咲ちゃん、そのウソが真実を語るよりも雄弁に先程の発言が真実である事を語っていることなど夢にも思っていませんでした★

「…新郷?」

ビクゥウウウウッ!!!!!

慌てて電話を切り、ロッカーに入れてバンッと閉めて振り返ると、大河原がキョトンとした顔で立っていた。

「…ど、どうしたの? 新郷…」

うっわぁあああああああ!!!!!
駄目だ! ど、どう見ても…


石蔵鉄志にしか見えん!!!!!

に、似てる!!? 似てるとかそんなレベル!!!? 目とか同じだよ!!!!!
高校時代はそんな風に見たこと無かったし、というか夢にも思わないし!!!


汗が出る! 顔が真っ赤になっていく!! 

「新郷…大丈夫?」


うわーーー!! 近い近い近い近い!!!!!

駄目だ!! 何も言葉が出てこない!!!

「新郷…」
「な! なん…」
「…汗臭い…」

!!!

この道場では門下生は殆どが自警団員で、忙しさや面倒くささから胴着はロッカーに入れっぱなしになっている事が多い。 ある程度は洗うものの、皆この臭いには無頓着になってしまっているのが良くなかった。 「獣寄り」の店長からすれば、それはかなりの臭気を放っているのだ! 流石の店長もつい感想を口にしてしまうほどに!!

そう、無頓着になっていること…それが新郷中佐の敗因であった。

「あ! あぁ…すまない!!! す、すぐ着替えるからっ!!!」

急にどもって焦りだした新郷に、店長も自分が言った言葉の失礼さに気が付く。

「あ、ごめん新郷! いいよ、そんな気にしなくても…」

手を挙げて静止しようとするも、新郷は顔を真っ赤にしながら汗をかきかき着替え始めた。
悪いことを言ってしまったと深く反省する暇も無く、かつての級友の肌がどんどん露わになる。
シュッと帯を外し上着が肌蹴ると、この道場と自警団とで鍛えられた筋肉がその姿を見せる。
そして次の瞬間、紐を外された胴着の下がストンッと足元に落ちた。

新郷はー


なにもはいていなかった。

この道場では、練習場に立つ際、胴着の下には何も穿かないのが慣わしだ。 
最初は抵抗があったものの、今ではすっかり慣れて着替えの時にも全裸になることに無頓着になってしまっていた。
大河原の動きが完全に停止してしまった理由が、新郷にはわからなかったのだ。

そして、彼にとって最も運が無かったのは…

店長が前のめりに倒れてしまった事だ。


「お、大河原!! だ…大丈夫か!!?」

自分の腰の位置で抑えてしまったのも良くなかった
そう、その姿はどう見ても…

「フェ…フェラ…」
「な!!? 何言って師範んんんんん!!!!?


だけじゃない!!!!!

「キッ…キバトラァアアアアアアア!!!!!」
「いいっすよ…やってやりますよ!!! 俺がやってやりますよぉおおお!!!!!」
「滅せよ…!!!!!」
「そうかそうか…一度は引いておいて、こちらが油断した所で一気に攻め入るとは…武道というものを良く理解しているじゃあないか…
えぇ!!? 新郷!!!!!」


ぼろ雑巾の様になって帰って来た兄に悲鳴を上げた妹だが、師範に組み手をしてもらったと話すと、そっかと安心して寝た…。
大河原が気が付いて弁明してくれるのがもう少し遅かったら、兄ちゃんこんなもんじゃ済まなかったんだぜ?




その夜、いつもの夢を見た


高校の教室、俺はいつものように仲間達と他愛の無い話をしている。
遠く離れた窓側の席で、一人ポツンと机で寝ている大河原を横目に見ながら…。

昼休みには、いつも一人屋上で飯を食ってるらしい大河原が、何故すぐには教室を出ずにこうして寝ていたのか、今なら…わかる気がした

皆の話…聞いてたんだな

少しでも仲良くなろうと   皆の事を知ろうと   
俺の、妹の話も…

「さっさと屋上行けばいいのに」

バンッ!!!

その音は、教室中に響き渡った

全員が驚いた。 
一番驚いたのは、突っ伏していた大河原だろう。 上半身を起こして、机を叩いた俺を見ている。

広げていた弁当を仕舞い直すと、それを持って大河原の席に歩み寄る。

「なぁ…大河原、一緒にメシ…食おうぜ」

ずっと思い悩んでいたその一言は、思っていたよりもあっさりと、自分の口から出てきた。

「…………は……?」
「駄目か?」
「…べ、別に駄目じゃ…ねぇけど……」

「…なんだよ大河原…」

「泣く事ないだろ…」

その言葉にハッとし、顔を真っ赤にすると彼は目をごしごしと擦った。
「あ、欠伸だよ!! 今まで俺、寝てたから…!!」

ウンウン頷くと、大河原の前の席の椅子をクルリと回し、彼の机を挟んで向かい合って座った。
自分の頬が赤くなるのを感じながら、そのまま弁当を広げる。

大河原は、顔を真っ赤にしながらカバンからごそごそとパンを取り出してかぶり付いた。
弁当のから揚げを一つ差し出すと、恥ずかしがりながらもバクッと食べてくれた。
そしてそのまま、自分が食べていた焼きそばパンをこちらに差し出してくれる。
俺がそのまま大河原がかじった所をバクッと食うと、さらに顔を真っ赤にした。

「ぎゃ、逆側を適当に千切れよ!」
「いいじゃんか。 ウン、美味い美味い」

「…ったくよ…」



この日以来、俺はこの夢を見なくなった。

きっと見る必要がなくなったからなのだろう。 

この夢の続きはー


現実で見ていけばいいのだから



おしまい



さ〜て! 次回ののんけもは〜!!?

「新郷です。 大河原との仲も良くなり、まずは一安心といったところです。 でもまだまだ課題は山積みなので、焦らずじっくり一つ一つクリアしていきたいと思ってます。 まずは師範との仲の回復を…
さて次回は、今回のお話の疑問にお答えする特別編!
何故大河原はお化け屋敷をすることになったのか、何が怖くて大河原は泣いてしまったのか、そして大河原は一体竜神様に何をしたのか?
数多の疑問を解決する次回・『新郷中佐と戦慄夏祭り・Q(question)』

さ〜てこの次も、サービスサービスゥ!(汗)」

「グッドだよ新郷!! グッド!!!」
「なぁ大河原…この予告、何か混ざってないか??
「あ! ちなみに自分、新郷のオチンチンに触ってるわけじゃないですからね!!?」
「(聞いちゃいねぇ…)」


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