タン師範は朦朧としていた。
 頭部に食らった丸太の一撃によるものではない。 むしろ……

ありがとう、丸太……!!

 気を失い川に流された自分を店長さんが助けてくれて、そのまま膝枕にて介抱してくれたようだ。
 頭のこぶを擦ってくれ、一緒に前髪をかき分けたり鬣をすいたりもしてくれた。 それがまた何とも気持ちが良い。 日の光で乾いた店長さんの体毛はフカフカで、彼の匂いと相まって極上の心地良さをくれていた。 朦朧ともするわけである。

正に夢心地! 夢なら覚めてくれるな……!!

 ふと、店長さんを見上げると、あれ? 微妙に私のほうを見ていない。 何だろう、私の足の方を見ているような……? 少し頭を持ち上げて、店長さんの視線の先を見てみると…

おちんちん、えらい事になってた!!

 あまりの心地よさに、いけない所が反応してしまったのだ!! ギャァアアアス!!!
 バッと起き上がり、そのまま股間を覆い隠す!
 ゆ、夢なら醒めろっ!!

 店長さんは無言のままこっちをじっと見ている……! マズイ! 店長さんへの劣情がばれるっ!!

「きょ、今日はもう帰りましょうか! どうも上手く精神統一出来なさそうですから…!」

 適当に誤魔化し、湿った褌を脱いで普段着用しているサポーターを穿こうと前屈みになる。

 これがいけなかった。

 師範は店長の事を同性愛者だなんて夢にも思っていないのでこのような姿勢も気に留めなかったが、店長からすればいきり勃ったモノを見せられた上、現在


タンさん、自分に向けて肛門丸出し状態なのだ!!

 不意に師範、「ブツッ」と何かが切れるような音を聞いた気がした。 はて?と後ろを振り返ると………

今度は店長さんがえらい事に…!!!

 驚いている師範の隙を突き、物凄い力で後ろから師範を羽交い絞めにする店長! いつのまにか水着の前部分を下げイチモツをあらわにしていた彼は、そのまま師範の肛門にグリグリと男性自身を押し付ける! だが何の準備もしていない状態で中に入る訳も無く、切れた店長はさらに息を荒げた。

 師範は、驚いていた。 肛門に無理やり侵入されようとしている痛みを忘れるほど……嬉しかった。


店長さんが、私の体を求めてくれている……!?


 肩に力を入れ、瞬間
「パシッ」と店長の羽交い絞めを弾く! 驚く店長! だが、師範はそのまま振り向くと跪(ひざまず)き、店長のいきり勃ったモノにキスをした。 
 呆気に取られている店長に一瞬優しい視線を送り、そのまま師範は口で奉仕し始めた。 たっぷりと唾を付け、「やりやすい」ように……。
 同時に己の肛門に指を入れ、柔らかくほぐそうと必死だった。 経験が無い師範は、どうすればよいのか良く判らない。 きっと店長さんの男根を汚してしまうだろう……。 事後に川で洗ってあげるか、駄目ならまた口で綺麗にしてあげようとさえ思っていた。

 店長もゆっくりと我に返っていく。 段々と現状を把握していき、顔が青ざめていく


「あ、あの……タンさん……」

 奉仕を終えると、師範は立ち上がり真っ直ぐに店長を見た。 頬を赤くして、そのイチモツを滾(たぎ)らせて。
 店長もそこでようやく気付いたらしい、師範の気持ちに。 

 店長の顔も赤くなる。 

 照れる店長に静かに微笑みかけると、師範はクルリと後ろを向き、膝に手をやって尻を彼の方に突き出した。

 ここまできて、言えねば馬鹿者だ…!


「て、店長さん……わ、私は……」


 喉が渇く、頭が熱くなる! 言え……!! 言え!!!

「私は……ずっと」

 店長さんが自分を求めてくれている、今なら言える……!!

「ずっと……貴方が……」

 夢なら……夢なら……

「ずっと貴方が好きでした…!!」

夢なら、醒めてくれるな……!!!

夢でした(笑)

 今世紀最大に落ち込む師範。 ある意味夢の一部(膝枕)は叶っていたものの、己の精神の浅ましさにもう言葉も無い。 介抱してくれていた店長さんの顔をまともに見れない。

 そのままムクリと立ち上がり


「すいませんでした……今日はもう帰ります……」

 と、消え入りそうな声で呟くのが精一杯だった。

「あ、あの……タンさん!!

 いきなり大声で呼ばれてビクッとする師範。
 振り返ると、店長さんが何故か思いつめた表情をしている。 何だろう……? イヤな汗が出て来る。 何か気付かれてしまったのか……?

 考えている最中、店長がいきなり


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」

 無言のまま顔を真っ赤にして、水着を膝まで下ろした!

 何が起こっているのかわからない師範。 状況をさっぱり理解できない。
 だが、視界に入っているもの(具体的に言うと店長のおちんちん)を理解し始めると、途端に師範の顔も真っ赤になり始めた。


 また夢か……!?


「な……な……!?」

 夢と思っても全然言葉が出てこない。 すると店長が


「すいません! 自分、見ちゃったんです!!」

 突然意味不明な謝罪をし、腰からきれいに頭を下げた。

「……? はぁ……な、何をですか……?まさか私は現実にも勃起を…
「あ、あの、川からタンさんを引き上げた時、その……ふ、褌が外れてしまって……」


 姿勢を戻すと、店長の顔はますます赤くなっていた


「じ、自分だけ一方的に見てるのって、その……申し訳なくて!!」

 呆然とする師範。

 目を瞑って顔を真っ赤にしている店長さん。 余程恥ずかしいのだろう。 見た事も、見られている事も……。
 それでもこの人はこういう行動に出る、そういう人なのだ。

 そう、これは現実だ。 私が好きな店長さんだ。

 師範は、昔の事を思い出した。 

 何故私は、この人を好きになったのか。 その理由を思い出したのだ。 
 それは―

その心遣いと、優しさだった。

 師範はゆっくりと店長に近づき、店長が目を開けると、自分も褌を外した。

 店長の目に、再び師範のイチモツが映る。
 もし、見てしまった相手がナギさんや源司さんだったら、店長もこんな行動には出なかっただろう。 精悍な、男らしい顔つき。 鍛え上げられた逞しい身体。 そんな師範の股間に佇むものは……完全に皮に包まれ、ちょこんとした、店長よりも小さなかわいらしいおちんちんだったのだ。
 これを見てしまった事には店長、凄い罪悪感を感じた! 師範はそんなこと、てんで気にしてなどいないのだが。

 再び店長の顔が赤くなる。 だが、師範の顔を見ると、師範は優しい目で静かに笑っていた。


「……」


 不思議と店長も肩の力が少し抜け、汗をかきながらも頬を染め、照れくさそうにハハハと笑った。

 店長の笑顔を見ながら、師範は思う



あぁ……私は、本当に

この人が好きなのだなぁ




セイッ! セイッ!!

 今日も師範の道場に、猛者達の掛け声が響き渡る。

 ここの門下生は皆、隣町の自警団に所属する兵(つわもの)達ばかりだ。
 だが、そんな彼らもおいそれとは師範に声を掛けられない。 それほど、彼らにとって師範とは特別な存在であった。

 しかし、今日は自警団の中でも兵中の兵、新郷(しんごう)中佐が来ている。 あの人ならば……!


「あの…し、師範」


 みんなの心が一つになる!
 頑張ってください、中佐……!!

「何かね?」

 師範の野太い声に、中佐の心が萎えそうになる。 だが、引けない……!

「あの、か、掛け軸の前に置いてある、あの丸太は一体……?」

訊いたぁあああああ!!!

「? あぁ、あれは御神木だ」

「…は…?」

「御神木にすると決めた」

 道場に通う門下生達にとってタン師範は、尊敬し、畏(おそ)れ、そして

 
永遠に理解できない存在であった。

おしまい。


inserted by FC2 system