虎鉄さんと現場に戻った時、大乱闘はまだまだ続いていた。
いや、ある意味終わっていたのだが……
予想の斜め上を行っていた!!
何この状況!?
「キバトラは俺が呼びに行くっつってんだろ! オッサンはご老体を休めてろよ!!」
「貴様こそ横になっているが良い! 私が呼びに行き、帰って温泉に入るのだ!!」
……俺の事、眼中に無いんすね?
そう、地元の不良相手の喧嘩自体はとうに終わっていたのだ! 全員失神+全員全裸!!
この二人、本気で強すぎ! そして死ぬ程タチ悪い!!
ところで、あの……この場に居てはいけない方がいらっしゃいませんか……?
「何座ってジックリ見てるんすか!? 竜神様、貴方教師役でしょ!!?」
「おや、戻られましたか! ちゃんとお友達になれたようですな?」
俺と虎鉄さんを見て、竜神様が微笑んだ。 おのれ、やはり確信犯か!
源司の言葉を受けて、ナギタンコンビも喧嘩を止めて二人の方をクルッと向いた。
「お友達? 何だそりゃ……?」
ナギが(師範に蹴られた)腹を擦りながら不思議そうに訊くと、つられてそちらを見た師範の目にその映像が飛び込んできた!
虎鉄と茶道寺は、手を繋いでいたのだ! 仲良さそうに!!
師範の表情が一変し、ズンズンと二人に近付く!
こ、殺される……!
そう茶道寺が思った瞬間、師範は虎鉄君の空いてるほうの手の横に立つと、自分も手を繋いで頬を染めてニコッとした。
「なら俺はこうだ!」
そう言うとナギは、虎鉄君の後ろに回って背中からガバッとしがみついた!
「お、スキンシップ大会ですかな? では私も……!」
そう言うや否や、源司さん、いきなりボフッとでかくなった! 綱引きの時に見たモコモコモードだ!!
全員の顔が青ざめる! ま さ か……!?
そして! そのまま!!
全力で抱きしめた!!!!!
い、意識が…………
目を覚ます。 何か、久しぶりにすごい寝た気がする。 僅かに外から光が漏れ、数人の寝息が聞こえる。 明け方かな……?
一瞬、自分が何処にいるのか判らなくなる。 ……そうか、飲み会……。
そうだ、タンさんの道場で虎鉄さん達とみんなで宴会したんだっけ。
しかし今回は飲みすぎたか、途中からまったく憶えてない……。
そういえば、何か……楽しい夢を……
周りに視線を巡らせると、皆が寝ている中、虎鉄さんの姿だけが無かった。 どこ行ったん……
そこでふと、おかしな事に気が付いた。 あれ、何で俺、店長さんの事『虎鉄さん』って……?
スラッと部屋の襖(ふすま)が開いた。 仰向けに寝転んだままそちらを向くと、ハンカチで手を拭きながら上半身裸の店長さんが入ってきた。 トイレか。
二人の目が合う。
「あ、愁哉君……」
そう聞いて、! やっと記憶が戻った! そうか、俺、源司さんに頼んで……!
何か言おうにも何を……? そう考えていると、店長さんが何かアガアガ言い出した。
何だろ……? 何かに凄い驚いている。 そして、さっと視線をそらした。
明らかに今、俺の身体のほう見たよな……?
そういや何かスースーする……。
恐る恐る頭を上げ、自分の体を見てみる……。 ま、まさか……?
全裸です。 そして、おちんちん元気です!
うわぁあああああああああああああ!!!!!
ガバッと前屈になる! 両手程度では隠せるシロモノではないのだ!!
顔を真っ赤にする。 み、見られた……!?
平常時は見せたけど、まさかこんな浅ましい状態まで見られるなんて……!! てか、いつ脱いだんだ俺!? 虎鉄さんのリアクションから考えて、虎鉄さんがトイレに立った時には脱いで無かったってことか……!?
クッソー、もう少し早く目覚めていれば……!!!
茶道寺がショックに打ちのめされていると、店長がそこであることに気付き、茶道寺に近付いた。
そして、茶道寺の背中に触れた。
「……!? あ、あの……?」
「傷、ちゃんと消えたんだね……」
そう言うと、優しく茶道寺を背中から抱きしめた。
「良かった、愁哉君……本当に良かった……!」
声が少し、震えていた。
感動の……! この場面……!! 本来なら自分も涙を流して、感謝の言葉の一つでも言いたい所なのに……!
虎鉄さんの体毛がフカフカで気持ち良過ぎて、ますますイチモツがえらい事に!
こ、こんな所…あの二人に見られたら……!
チラッと二人が寝ている方に視線をやると……
既に起きた二人が凄い顔でこちらを見ていた。 (映像はお見せ出来ません)
「! ち、違うんすよ!! これはそういうあれじゃなくて……!!」
しどろもどろになる!
当然だ、客観的に見れば全裸でおっ勃てた男に上半身裸の男が抱きつき、「良かった」を連発しているのだ! 涙を浮かべて!!
「そんなにご立派なチンポがご自慢ですか、アァ!!?」
ナギさん、ちょ、待って……!
「奈落の底って、どうなってるんですかなぁ?」
知らないです! 知りたくも無いです!!
源司さんが目を覚まし、股間に俺の帽子をぶら下げたままこの状況に入ってきた。
「おや、イチモツの自慢大会ですかな?」
おぉおおおおおい!!! 事態を変な方向に持っていかんで下さい!!
そしていきなり脱ぎだすナギタンコンビ! ちんちんいじりだしましたよ!!?
虎鉄さんもようやく感動から抜け、途端この状況にポカンとする。
再び目が合う。 そして
一緒に笑った。
虎鉄さん、変ったっすね。 俺も、変らなきゃですよね。
俺、もう逃げないっすから。 何からも、自分の「心」からも。
俺、虎鉄さんの事が 好きです
明け方、ようやく自警団の仕事を終え、新郷中佐は自宅に戻った。
風呂に入っていると、妹が声を掛けてきた。 すまないな、起こしてしまったか……。
二人きりの家族、最愛の妹……。
そういえば昔、妹の事を話題に上げられ肝を冷やしたな……。
高校時代、三人の転校生のひとりに言われたのだ。 うち一人はライオンで、今は師範の顔がダブってしまう。
余程怖かったのだろう、当時の俺は。
とはいえその三人、修学旅行で暴力事件を起こし、現場に居た教師共々退学処分になったんだっけか……。 大河原、ショックだったろうな、仲良さそうだったし……。
当時の事を思い出すと、今でも胸が痛む。
当時俺は、いや、クラスの全員が、大河原を怖がり、嫌っていた。
彼が起こした暴力事件の真相を知ったのは、暫くしてからの同窓会に於いてである。
本人は参加しなかったが(当たり前か……)、神職に就いた級友が、高校のあった土地の神様である亀神の御爺様に話を聞いたそうだ。
子供を、助けようとして……
あいつは今頃、何処で何をしているだろう……? 友人が出来ただろうか?
再会出来たら、謝りたい。 謝って、許される事ではないかもしれないが、それでも真っ直ぐに謝りたい。
そうしたら、あいつと友人になれるだろうか……あいつの為に真剣に怒っていた、あの馬獣人の様に……
「ちなみにこの勝負、良識の範囲内での勝負だから、茶道寺は反則負けな」
「何すかソレ!!!?」
おしまい。