「―という訳で、ご紹介させて頂きます」


波威流(パイル)弩来波(ドライバ)です」


名前すげぇええええ!!!!!


 源司さんと二人で泊まる大きな和室に通される。 花瓶や掛け軸などの装飾品は何もない、だがどこも清掃が行き届いていて非常に居心地が良い。 畳の匂いと木の匂いが、何とも心を落ち着かせる。 雰囲気良いなぁー!

 少し気分が高揚し、パッと窓の外に顔を覗かせた。

 遠くに広がる樹海。 円に切り取られた別世界。
 窓の下には、綺麗な庭園が広がっていた。


「源司さん、庭師とか呼んでるんですか、ココ?」

 座布団に座っていた源司さんがパッと表情を明るくし、自分の隣から顔を覗かせる。

「いえいえ、庭の手入れは全て、弟達がやっているのですよ」

 へぇ〜、そうなんだ……。


「神様の力って、こんな事も出来ちゃうんですねぇ」

 本当に万能だなぁ……。 そんな事を考えていると、源司さんが頬を染めて誇らしげに微笑んだ。

「全て、自分達の手でやっているんですよ?」

 驚いて庭園を見直す。 これをあの二人が……?

「庭だけではありません。 お出しする料理も、盛り付ける器も、何から何まで全て、神の力は一切使わず自分達で用意しているのですよ!」

 エッヘン!
 そんな表情で弟達の話をする。 余程自慢なんだろうな……自然とこちらも笑みがこぼれる。

「弟さん達の事、大好きなのですね」

「えぇ、愛していますよ、心から。 神に許された唯一の『愛』ですしね


 臆面も無く言い放つ。 何か凄いなって思ってしまう。 後半は何やら良く判らなかったが……。
 そういや双子の弟達もお兄ちゃんにベタ惚れみたいだったもんなぁ……自分がいるのも気にせずに
「兄ちゃん兄ちゃん」って源司さんの胸に頬擦りばかりしてたし。

む……愛し合う兄弟か……

 店長がイカンイカン、と変な方向に行きそうになった自分の脳内劇場を打ち消そうとするが、追い討ちがかかった!

「弟達が望む事なら何でもしてやりたいし、させてやりたい……」

!! な、何でも……したいし……?


させてやりたい……!!!!?

 自分の妄想に急激に落ち込む店長。 源司がキョトンとこちらを見ている。 そのピュアな視線が痛いの!!

 ハッ! か、神様って
心とか読めるんじゃ…!!?
 ぶんぶんと頭を振って何か違う話題を持ちかけようとした時、スラッと襖が開いて弟のどちらかが入ってきた。

「兄ちゃん、お茶淹れてきたよ〜!」

 ニッコリ笑顔で声を掛けてきた! ナイス、弟のどちらか!!
 コポコポとお茶を注ぐと
「源司」と字の入った湯のみをお兄ちゃんに渡す。 お兄ちゃんも満面の笑みだ。 

 何とも心温まるなぁ……←エロ妄想してたクセに!

 と、こちらを向くと自分にもお茶を淹れてくれたのだが―


「ほれ トラ 茶」

6文字かよ!!!

 なってねぇ……! 本当にこの双子共、接客がてんでなってねぇ……!!
 お兄ちゃんはこの辺叱る気ゼロらしいし(美味そうに茶ぁ飲んでるよ!)、ここは自分が同じ接客業を営む者として、心を鬼にして言ってやらねば! やらねばなるまい!!

 だが、大きな問題が一つ。 


波威流か弩来波かがてんでわかんねぇ……!!

 弟達を溺愛するお兄ちゃんの前で、呼び間違えは流石にまずい……。

 最初は無愛想な方が自分達を出迎えた弩来波で、ニコニコしている方が波威流かと思ったのだが、あの無愛想顔は『接客モード』だったそうな(ありえん……!)。
 自分がお兄ちゃんの知り合いだから接客モードでいる必要は無い、という波威流の意見に同意するや否や、弩来波もまったく同じニコニコ顔になってお兄ちゃんに頬擦りを始めたのだった。

 とは言えこのぶっきら棒っぷり、どちらかといえば弩来波だろ……。 よし、意を決して……


「ところで、弩来波は今何してる?」

あっぶねぇ…!! 波威流だよ!!!

「温泉の掃除ー。 兄ちゃんが入りに来てくれたからねー!」

「そうか、ありがとうな」

 お兄ちゃんの感謝の言葉に顔を文字通り真っ赤にすると、バッと立ち上がり、

「じゃ、お、俺も掃除手伝ってくる!!」

 そう言うと部屋を出て行った。 ああいう所は可愛いんだけどなぁ……。

「源司さん、その、失礼とは思いますが……」

 今後も叱らねばならない機会もあるかも知れんし、思い切って訊いとこう。

「二人の見分けるポイントって何処ですか……?」
「ハハハ、やはり見分けがつきませんか」
「それはもう……何か無いんですか? 跳ね毛の数が違うとか……」
「? 髪型で見分けるのですか……? そんなものは日々違うでしょう?」

 すいませんね……漫画的思考で……。
 店長、顔真っ赤。

「そうですねぇ、目元とか、鼻の角度とか、口元とか……その辺りでしょうか」

「いや、ですからそこが見分けられないんですってば」


「……………」
暫く考え込むと

「温泉、楽しみですなぁ」


あぁ……


 日が傾き始めた頃、ようやく双子からお声がかかり、二人はガラガラと露天風呂の扉を開けた。
 途端、店長は息を呑んだ。 すれ違った双子が汗だくだった意味がわかった。

 大きな露天風呂。

 露天といえば、店長はあまり良い印象を持っていなかった。 湯に浮かぶ木の葉や何かのクズ、地面に転がる虫の死骸……。 そんな、清潔とは言えない印象しか持っていなかったのだ。

 だが、そんなものとは無縁の、綺麗な露天風呂がそこにはあった。

 床は石造りだが足を置いてもぬめりが無い。 濡れてはいるが踏み心地は格別だ。
 そして湯船。 僅かに茶色みがかった乳白色の温泉。 『濁っている』のではなく『色の付いた綺麗なお湯』だというのがよく分かる。
 急に掃除をしてもこうはなるまい。 普段から綺麗にしつつ、且つ兄の為に念入りに掃除をしたのだろう。

「店長さーん、先に体を洗うのですぞー!」

 ちょっと感動に浸っていると、源司さんが声を掛けてきた。 大丈夫ですよ、その辺は心得てます!

 二人で並んで身体を洗っていると、ガラガラと扉が開き、素っ裸の双子が入ってきた。
 この辺は兄弟だなぁ。 お兄ちゃん同様、全然おちんちん隠す気無いよ……。 

 しかし同じ竜神兄弟でも、随分違うものだ。

 引き締まった全身(おなか出てない)。 完全に剥けてるおちんちん。
 思わずじーっと見てしまったらしく、二人がこちらの視線に気が付いた!

「こてっち、何?」
「いや、べ、別に…って、こてっち!!?

 このヤロウ……! 勝手に変なあだ名考えやがって〜!!


「二人とも、さぁこっちおいで! 汗かいただろう、体洗ってやろう!」

 二人は大喜びで源司さんの前にちょこんと座った。 話題が流れてホッとするも、また叱る機会を逃してしまった……。

 それから数十秒後、店長の身体(の一部)は危機的状況を迎えていた。

 この兄弟のイチャイチャッぷりが度を超えていたのだ! 兄が弟達の身体を洗ってあげる際、全身洗った後に二人を中腰にさせて、後ろからお尻の穴まで洗い始めた!! そして二人とも気持ち良さそうにしている……!! そしてそこを洗い終えると、そのまま手を伸ばして後ろからおちんちんまで洗い始めましたよ このお兄さん!! 双子も双子で笑ったり小突きあったりしながら、これまた気持ち良さそうに洗ってもらっている……っ!!!

 
何このイベント!!?

 そして、全て洗い終えると


「今度は俺らが兄ちゃんの体、洗ってあげるよ!」

 そう言うやいなや、片方がお兄ちゃんの背中に回って、前後から源司さんを挟みましたぜダンナ!!?
 そして一生懸命にお兄ちゃんの身体を洗い始める。 

 やはりそこには邪な感情など無い、純粋な兄弟愛なのだ……そう安心しかけたその矢先!


「じゃ、兄ちゃん、少し腰浮かせて?」

スコシコシヲウカセテ!!!?

 いきなり飛び出すエロワード!!

 座った状態から少し腰を浮かせるお兄ちゃん! そして! その前後の秘部を、同時に洗う弟達!!
 波威流、弩来波……恐ろしい子!!!
 決定打になったのは、前で跪きながら源司さんのおちんちんを洗ってあげていた双子のどちらか! 一通りおちんちんを洗い終えると……


お兄ちゃんのおちんちん剥きやがった!!!

 初めて見る源司さんの先っぽ。 常に皮に包まれているため弱い皮膚のままのそれは、ぬらぬらといやらしい光を放っている。 それを柔らかくタオルで包んで洗ってあげると、さらには汚れが溜まりやすいくびれの部分まで丁寧に洗い始めた!!

「大丈夫だよー、兄ちゃんだってちゃんと剥いて洗ってるよ?」
「でも兄ちゃん、尻尾の裏はあんまり洗えてないだろー!」
「ハハハ、そこを洗うにはおなかが少ーし邪魔かなぁ」


 そんな無邪気な会話をしながら、お兄ちゃんはニコニコ、双子はキャッキャとはしゃいでいる。
 素晴らしきかな兄弟愛。 でもスイマセン、自分、もう、股間の
ビッグバンに耐えられません!

 急いで身体を洗い終えると、変な体勢のままジャブンと湯船に浸かった。

……ここの温泉、無色透明じゃなくて良かった……

そんな事を考えていると


 源司さんが不思議そうな顔をして入ってきた。

 
本当、この天然神様ーズは……!! 前を隠し給えよ!!!

 顔が火照るのを感じながらも股間が落ち着く事を必死に念じていた時、双子の何やらヒソヒソ話す声が聞こえてきた。 
 不穏な動きを察知した店長! 警戒しようと双子の方を振り向くと……

双子がいない……!
 いや、違う!

上だ!!!

 空中高くジャンプした双子は! そのまま!!

ザッパァアアアアアアン!!!!!

 温泉にダイヴ!! 大きな湯柱が立ち、ザパァッと顔を上げると、ずぶ濡れの兄と客人を見て大笑いした。
 源司さんはまだしも、全身体毛で覆われた店長は、正に濡れ鼠状態である。
 ゲラゲラ笑う双子に、遂に!! 店長の頭辺りから
ブツッという音が!!!

 ゆらりと立ち上がり、そして……!


「神様にも、やって良い事と悪い事があるんじゃあああ!!!」

 そう怒鳴ると、ザバァッと風呂から上がり、プンプンしたまま脱衣場に向かった。
 キョトンとする双子。 そのまま兄に顔を向ける


「ねぇ、兄ちゃん、『神様のしちゃいけないこと』って何?」

 その質問に、源司はニコッと笑みを浮かべた。

「そうだなぁ、ピンと来ないよなぁ、神様なら。 うん、言葉で言うなら……そうだなぁ

 そう言いかけた時、視界の端に店長の姿が映った。
 脱衣場に入った訳ではなかった。 フェイントである! そのままくるりと向きを変えて、そのまま! 全力疾走!!

 
そして!!!


ダイヴ!!!!!

 再び大きな湯柱が立ち、双子もずぶ濡れ!
 ザパァッと湯船から顔を上げた店長、双子をバッと見て一言。


「己の欲せざる所 人に施す事無かれ!!!」

 呆然とする双子。 店長がムスッとしていると、後ろから押し殺したような笑い声が聞こえた。
 振り返ると、源司さんが口を押さえながら肩を揺らして笑っていた。

「な、何が可笑しいんですか……!?」

 困り顔で店長が訊くと、

「す、すいませ……ブフォッ!

 吹き出すと同時に大笑いした。
 双子同様、店長も呆然とする。 そして―

「まったく……」

 ムッとした表情に戻ってそう言うと、一緒になって笑った。

 双子が顔を見合わせる。
 それは、二人が始めて見る、兄の笑い顔であった。 優しい笑顔では無い、声を上げて笑う顔。

 それが二人には本当に新鮮で、そして、

 何より嬉しかった


  

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