○ある竜神様のものがたり○
「神様にも、やって良い事と悪い事があります!!!」
突然の怒号に目を覚ます!
「な、何事っすか!!?」
ここはいつものタンさんの道場。 だがいつもとは違う急展開! 何、今の怒鳴り声!?
茶道寺が辺りを見回すと、それが目に入った。
え、っていうか……
何すかコレ…!!?
状況を掴めずにいると、既に起きていたらしいタンさんがそっと耳打ちしてくれた。
「どうやら源司さん、寝てる店長さんのバンダナめくった様なのだ……」
それはまたビッグな地雷を……。
とはいえ自分も興味はあった。 あっぶねぇ〜! こんなに切れられるんだ……!?
隣を見るとタンさんもちょっと焦ってる。 同じ穴の狢(ムジナ)発見伝。
しかし虎鉄さんに切れられている当の本人、源司さんはというと、キョトンとしているというか、むしろ楽しそうというか、何とも奇妙な態度をとっていた。 それが尚更、虎鉄さんをヒートアップさせていた。
「ちゃんと聞いて……」
「……あ、そうです!」
ポン、と手を叩いて、源司さんがニコッと笑う。
「お詫びに、特別な温泉にご招待しますぞ!」
「……お、温泉? とくべつな?」
店長の怒号がピタッと止んだ。
「えぇ、土地神だけが利用できる温泉宿があるのです。 そこに特別にご招待致しましょう! 神々が疲れを癒す温泉ゆえ、普通の方ならとろけますぞ〜?」
「と、とろける……?」
今やすっかり店長の顔からは怒りが抜けていた。 驚きの表情で頬を赤らめ、口元も少しずつ緩んできた。
虎鉄さん、温泉好きなんだ! わかりやすっ!!
ハッと我に返るとクルリと向きを変え、
「べ、別に温泉があるから許す訳じゃないですからね!」
と顔を赤らめながら言い放つ。
……ツンデレキャラみたいっすよ、虎鉄さん……
自分の帽子の所在に涙しながらも、この手のツッコミは欠かさない茶道寺であった。
アウトドア派の店長も、流石に息が上がってきた。
天狗山をもうどれだけ上がってきたか……。 以前タンさんと訪れた『名も無き滝』より、さらに奥にズンズン進んでいく。
周りはもはや樹海である。
ちなみにタンさんと言えば、今回の温泉旅行に参加したのは店長ただ一人である。
ナギさん、茶道寺さんはどちらも仕事、タンさんはこの日に限って隣町の武道大会の審査員を頼まれていた。
「(この世の終わりみたいな顔してたからなぁ、タンさん。 よっぽど温泉好きなのかな……? 修学旅行でも温泉がどうとか言ってたし)」←にぶっ
「着きましたよ〜!」
先を歩く源司さんの声に店長が顔を上げると、そこには大きな鳥居があるだけであった。 鳥居の向こうも樹海が広がるばかりである。
だが、何となくピンと来た。
「ではどうぞー」
息を呑んで鳥居をくぐる。 すると今まで木に遮られていた暖かな日差しがパッと視界に広がり、目を開けるとそこには、丸く開けた土地とその中央に、一軒の旅館が建っていた。
そう大きくは無い、古さは感じるが汚さは感じない、ちょっと不思議な感じの旅館である。
お話の中のような仕掛けに頬を赤らめていると、
「ここは私の双子の弟が経営してるのですよ」
今の感動を全て吹き飛ばすサプライズワードが飛び出した!
「双子の弟!!?」
店長の驚きに、逆に源司さんが驚いた。
「ふ、双子の弟さんなんていたんですか!?」
「……え、えぇ、まぁ」
意外だ。 意外な家族構成だ……。 この天然万能かみさまがもう一人……!?
「に、似てますか……?」
「それはもう! 見分けがつかないとよく言われてますよ!」
何だか嬉しそうに家族の話をする源司さんに、ちょっと頬が赤らんだ。
源司さん、こんな一面があったんだ……
「おぉーい! いらっしゃったぞ〜!!」
大きな声を上げながら、源司さんが玄関に入っていった。
「お帰り、兄ちゃん!」という声が奥から聞こえた! 声、結構低めだな……?
ドキドキしながら店長も玄関に入る。 視線を上げると、作務衣(さむえ)を着た竜神様が立っていた。
その……え?
似てる……!? ふ、双子!!?
いや、全然(って程でもないですけど)似てないですよ!!? ていうか何か恐いんですけど!?
などと店長が頭の中で突っ込みまくっていたその矢先!
「お帰り、兄ちゃん!」
さっき聞こえたのと全く同じセリフが! 彼の!! 後ろから!!?
!!!
え!? 双子の『弟』じゃなくて!!?
『双子の弟』!!!!?
新キャラ登場!? ×2
どうなる、温泉イベント!!?