大晦日年越しバトル!ー君のハートにフリーキックー


「お蕎麦出来ましたよ〜!」


ドンドンドン!! パフパフ〜! ぴ〜ひょろろ〜 パァアン!!!

え、何この盛り上がり…!?


短編 『大晦日年越しバトル!ー君のハートにフリーキックー』


「美味い!! いやぁ、店長さんの作ってくれたお蕎麦、実に美味いです!!!」

真っ先に声を上げたのは、いつもの通り道場を宴会場所として提供してくれた師範。 大好きな店長の手料理、そして一緒に年を越せることの喜びにすっかりテンションアップ!!(笑)
師範の褒め言葉に顔を真っ赤にする店長。 やはり料理を褒めてもらえるのは嬉しいのだ。

「あ、でもこのお蕎麦、ただ生そばを茹でて汁を作っただけですけど…」
「いえいえ! 茹で加減も素晴らしいですし、この汁が絶品なのですよ!! この甘味! ダシをしっかり取ってらっしゃるのですなぁ!!」

店長はもう恥ずかしくて頭を掻き掻きしている。 結構いい雰囲気の二人。 と…

「お蕎麦も美味しいですけど、俺はこのかき揚げも面白くて好きっすよ。 普通のかき揚げと具が少し違いますよね。 すげぇウマイっす! こんなのどこで売ってるんすか?」

茶道寺が負けじと声を上げた。

「や、やだなー愁哉君。 コレ、自分が作ったんだよ」

「え!? これ手作りなんスか!!?」
(実は茶道寺君、その事を既に知ってました)

「細切りのジャガイモと玉ネギと魚肉ソーセージで作ってみたんだけど…本当に美味しい?」
「はい!! めちゃめちゃウマイっす!! ウマウマっす!!!」

店長、さらに大喜び!! 今やしっぽブンブン状態!

「なぁ、キバトラ。 お前、こんな具材でここまで作れんだから普通に作った方が遥かに旨っ

え、馬…? って! どうしたんですか、ナギさん!!?

「大方、正座でもしていて足でもシビれたのではないですかな?」
フンッと鼻を鳴らして師範が蕎麦をすすりながら言う。 とー

「虎鉄さん!! オカワリです!!!」

今まで無言だった源司さんがいきなり声を上げた! どうやら一人黙々と蕎麦を食べていたらしい。 しかもその一言は店長をさらに喜ばせた!!

「は、はい!! 実は沢山茹でてあるんですよ! 今持ってきますから!!!」

大喜びで台所にかけていく。 その尻尾フリフリの後ろ姿が何とも可愛く、源司さんもついつい尻尾を振ってしまう。 これはいかんと師範と茶道寺も蕎麦を素早く食べ始める!

「な…」


「何しやがんだ、このボケライオン!!!」
今までプルプルしていたナギが、ここで突然の怒号を上げた!!

「は?」
「どうせテメェだろ!! 俺の足蹴ったの!!!」

「全く、何を訳の解らんことを。 よしんば蹴ったとしても、貴様はそれに文句を言える立場ではなかろう」


『よしんば』なんて実際に使うヤツいたのか!!


そうっすよね。」
茶道寺も相づちを打つ。

誰がナギさんの足を蹴ったかはとりあえず置いといて、折角虎鉄さんが美味しい料理作ってくれたのに、ナニ水さすような事言おうとしてるんすか。 大人としての良識を疑うっすよ」


うわぁ、何このムカツク態度!!!

「そうだぞナギ君」
さらに源司さんが追い打ちをかける!

「折角の好意を無駄にしたり誰が君の足を蹴ったかを詮索する事など、虚しいだけではないか」


真面目に説教中ペロペロすんなよ!!!

「お待たせしましたー!」

と、そこへおかわりをもって店長が戻ってきた。
流石に彼の前で喧嘩する訳にも行かず、ナギが黙って足をさする。

「ナギさん、まだ足痛いんですか…?」

源司さんにオカワリを渡しながら、店長が少し心配そうな顔をした。

「べ、別に大したことねぇよ…」
「良ければさすってあげましょうか?」

「…は?」

「自分、結構マッサージとか上手い方なんですよ〜」
「お、おい…」
「どうです? 最初は痺れてて痛いかもですけど、血行が良くなれば痺れ取れて来ますから」

「気持ち良くなってきました?」
「お…おぅ……」
「良かったー!!」
「キバトラ…」
「はい?」

「あんがとよ…」

へへー、と笑う店長。 二人の間に確かな絆が芽生えた!!(笑)

実はナギ以外、全員正座組。 しかも結構な長時間も正座平気組。 為す術無しか!!?

いや!!

「あ! 俺、ちょっと足痺れて来たかもっす!!」

「ほほぉ! では私がマッサージの極意を見せてやろう!!」

もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみ

「あぁあああ!!! 俺の折角の痺れが瞬く間に…!」

タン 幸志朗・抜け駆けだけは許さない!!!

「へぇ〜、幸志朗さん、マッサージお上手なんですか?」

ここで店長、意外なところに食いついてきた!

「え!? えぇ、まぁ…。 良ければ肩でも揉んで差し上げましょうか?」

意表を突かれた所為か、特に何も意識せずに言う事が出来た。 だがそれが逆に功を奏した!

「んっ!」
「あ! ちょっと強すぎましたか!!?」
「い…いえ…! き…効きます…! 凄い…気持ち…いぃ…んっ!!」
「け、結構凝ってらっしゃいますね…首あたりもどうですか…?」
「あ!! そこ…凄いです…! 幸志朗…さん、上手…い…!!」
「そ…そうですか…? ありがとうございます…(うわぁあああ)

茫然自失の茶道寺君。 野望潰える!!(笑)
だがここで源司さん、ピコーン!! 何か閃いた!! 
いきなりオカワリの蕎麦をものすごい勢いでかき込む!! 一瞬で蕎麦のおわんを空にすると

「虎鉄さん、もう一杯オカワリ頂けますかな?」

そう切り出した。 店長も慌てて立ち上がろうとすると、スサササと店長の後ろに回り込む源司さん!
そして!! おもむろに!!!

「それでは、お蕎麦のオカワリいっただっきま〜す!」

はむはむ〜★

ナニィイイイイイイイイイイイイイ!!!!?
全員、完全に意表を突かれ、その所業に度肝を抜かれた!!!

「んっ! あ、ちょっ…源司さん! それはお蕎麦じゃないですよー!! もう〜、しょうがないなぁ」
そういうとお互いに視線をかわしてハハハと笑った。

これこそ、天然キャラを売りにしている神様だからこそ許される戦法!! 他の者が同じ事をやったら間違いなくドン引きの荒業炸裂の瞬間であった!!!

完全に取り残される茶道寺君! 濃いキャラばかりに囲まれる現在! 弟キャラの彼にはもう出る幕すら無いと言うのか!!!?

否!!! そこに起死回生のヒントが隠されていることに彼は気付いた!!!

「虎鉄さん、俺…ちょっと眠くなってきたかもっす…」
「え!? 本当…? 大丈夫? お布団敷こうか…?」
「いえ、少しだけ…いいですか?」
「愁哉君…?」
「あぁ…気持ちイイっす…(ドキドキ)」

弟キャラによる甘えん坊作戦が見事に決まった!!! 

ゴォオオオオオオオオオオオル!!!!!

茶道寺!!! ブッ殺ス!!!!!

修羅の如き怒りも店長がいる前では発揮も出来ず(笑)
そうして、楽しかった一年の最後の夜が更けて行った。

除夜の鐘を聞き、皆で明けましておめでとうを言う。 そんな、どこにでもありそうな、大晦日の一日。

皆笑顔で、みんな仲良しで、幸せな毎日が過ぎてゆく
特別なイベントなんかなくても、その毎日が店長にとってはすごく大切で
そんな何でもない特別な毎日が、いつまでも続けば良いと

いつの間にか眠ってしまった店長は、夢の中でそう思いました


実際にはちょっとだけ現実とは違う部分があるのですが、その事に店長は

もしかしたら永遠に気付かないのかもしれませんね(笑)


おしまい

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