双子日和


体が自らを温めようと震えを始める、11月15日。


夕方過ぎの星見町。 
本日早番の店長は、夕食用のスキヤキの具財がたっぷり詰まった買い物袋を両手に提げ、フンフン言いながら帰路についていた。

と、薄暗くなってきた街角に、ちょっと珍しい人物を発見。
小柄な体格に作務衣という服装、そしてロン毛と二本の角。 間違いない!

おぉーい、と声をかけながら近付くと、向こうもこちらに気付いて振り返る。


「波威流!!!」

「ぶぶー!! 弩来波でーす!!!」


「短編:双子日和」


「…ちっくしょう…これで今度の食事当番は俺か〜。」
「へっへー! たっのしみ〜!!」

これが3人の間で取り決めた、仁義無きお遊びである。
いつもは店長が旅館に遊びに行った時、鳥居のゲートを開けてくれた双子のどちらかに対してこれを行う。
正解するとその日の夕食がとんでもなく豪華になり、ハズれると夕食当番が店長になる、そんな遊びである。 ただし、夕食当番が店長になっても双子はちゃんと手伝いをするのだ。 そして店長が作った料理に二人が爆笑するのがいつものお決まりのシチュエーションであった。

このゲーム、双子が嘘をつけば永遠に店長が勝つことは無いのだが、双子は悪さはしても決して嘘はつかないことを店長は知っていた。 実際何度か偶然正解した事もあるのだ。
3人の間には、確かな信頼関係が築かれていた。

これは、そんなある日のお話。


「珍しいね、こんな時間に。 何か用事?」
「うん、これ売ろうと思って」

そう言って弩来波が出したのは、何か丸い大きなものを包んだ風呂敷である。

ひょっとしてお皿?
「そうそう」
「…もしかして、お金に困ってるの?」

弩来波はブッと吹き出した。
「違うよー! 前は失敗作や気に入らないヤツは土に埋めてたんだけどさ、こてっちと遊んだ後『器屋』を見つけてさ、中見てみたら自分達でも作れそうなやつばっかり並んでたんだよね。 で、試しに失敗作売ってみたら普通に売れてさー。 それ以来、余ったヤツとか売りに来てるの」
「へー。 じゃそれも余ったヤツなんだ?」
「うんう。 これは遊びで作ったやつ」

そう…遊びで作ったお皿、売っちゃうんだ…。 売れちゃうんだ…。

「こてっちも一緒に行ってみる?」
「え! いいの!?」

器屋など全く縁がなかった店長は、大喜びで首を縦に振った。

商店街の中央通から一本外れた道にその器屋はあった。
店先で弩来波は胸元からタオルを出すと、急に頭に巻きだした。 こっちの方が芸術家らしいとか言い出しております。 まぁ…ロン毛と相まって、ぶっちゃけかなり「らしく」見えちゃってますけど…。
ガラガラと引き戸を開けると、「いらっしゃいま…!! 湯殿先生!!!」と店主の声が聞こえてきた。

湯殿先生…?
「(そ。 俺達のこっちの世界での連名。 『湯殿 双海(ゆどの そうかい)』って言うんだー)」

店長に小さく耳打ちすると先に入って行き、店内から店長においでおいでをする。

「店主。 こちらは私の友人だ。 先刻街中で偶然会ってな、共に足を運ばせて頂いた。 別段問題はなかろうな?」
「えぇ、それはもう。」

弩来波の、普段と全く違う口調と声色に驚いていると、人間の店主は店長の方に視線を運んできた。 
まるで品定めするような視線。 
笑顔を作ってはいるが、こういう視線には店長は敏感である。

そうこうしているうちに商談は順調に進んでいく。 どうやら本当に売れてしまうらしい…。 マジかよ。
店の奥に行った店主が再び戻ってくると、手には弩来波が持ち込んだ皿がちょうど入りそうな桐の箱を持っていた。 次いで硯(すずり)と水差し、固形の墨を取り出す。

どうやら弩来波が箱に銘を入れるようだ。
硯に水を入れ、墨を引いていく。 その姿が結構格好よくて

ちょっとムカついた(笑)

少し離れた所に立っていた店長だが、やはり少し気になって、器と一緒に買値を表示した電卓を覗き見てみる。


ーと、弩来波さん…? 貴方確か「遊びで作った」とか言ってませんでした?


800万円って見えるんですけど…?

店を出ると、いきなり店長は溜息を漏らした。

「どしたの、こてっち?」
「いや、何て言うか…真面目に働いてるのが馬鹿らしくなってきた…」

俯き加減だった店長だが、息を吸うと背筋をグッと伸ばした。
「でもまぁ、しょうがないか! こればっかりは才能だもんね。 遊びであんな見事な絵皿作れるんだから!」

「…上手かった…? あれ?」
ちょっときょとんとしている弩来波。 やはり本人にとってはどうでもいい出来だったのだろう。
「俺にとってはね。 うん、見事だと思った。 描いてあった絵なんて、本当に綺麗で。 上手いよねー!」

遠目に店長が見た皿の絵は、青の濃淡で見事に描かれた「竹林」であった。 しかもその奥に、さらに濃淡を使って「虎」を描いていたのだ。 この青い色は、皿に塗る時は真っ黒なのだが、焼きあがると綺麗な青になる。 しかも筆の強弱で濃淡が見事に浮き出すのだ。 これを見せてもらった時は本当に言葉が出なかった。

「本当に上手いと思った? あの『腹ペコこてっち』の絵?」

なんていう名前を皿に付けてやがる!!!?

「…うん、まぁ…名前はともかく上手かったと思うよ。」

「遊びで作ったって言ったけど、アレ、『逆バージョン』なんだ」
「…『逆バージョン』?」
「そう。 俺達って実は少し技量の方面が違ってさ、波威流は絵を描くのが上手くって俺は造形が得意なんだ。 だから普段は俺が作って波威流が絵を描くの。 で、今回は逆で作ってみようって。」
「あぁ、それで『逆バージョン』。」
「でもさ、俺なりに結構気合入れて絵描いたんだよ。 だから…さ」

「?」
「こてっちに褒めてもらったの、結構嬉しい…かな」

「や、やめろよそういう表情!! ちょっとドキドキするだろが!!!」

「何ならここで頂いちゃう?」

「頂かないよ!!!」

「って言うか、何だ『頂く』って!!? お、俺を何だと思ってやがる!!!」
「え? だってこてっちホモでしょ?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

バレてました。

「そうだ! 頂くで思い出した。 夕食どっかで食べて行きたいんだけど、こてっち美味しい店知らない?」
「旅館で二人で食べるんじゃないの?」
「今客来てて面倒くさくてさー」

ふーと溜息を漏らし、首を横に振りながらやれやれのジェスチャー。

「なら俺ん家でスキヤキ食ってく?」
「え!! いいの!!!?」
「いいよ、肉安かったからしこたま買ってきたし」

やったー!! と両手を挙げて喜ぶ弩来波に、ホモだとバレてた店長の精神ダメージもおおよそ回復した。

「あれ? そういえばお客さんって、弩来波の方が接客向いてるんじゃなかったっけ?」
「そうだけど?」

あぁ、なるほど…こっちも「逆バージョン」。 つまりはどうでもいい客って事か…。
本当にこいつらは…敵に回したくないなぁ…

「ところでそっちのヤツはスキヤキ一緒に行かなくていいの?」

いきなりの台詞に店長、きょとんとする。 何やら弩来波は、店長の肩越しに少し向こうを見ているように見える。
途端にぞわわわー!!!っと総毛立つ!!!!!

「ちょっ!! やめてよ、怖い事言うの!!! それってあれ!!? 食事の用意が終わったところで子供が『あれ? あの人の分のお皿はいらないの?』とか誰もいないのに言い出しちゃうアレでしょ!!!? 」
「いや、じゃなくって…」
「やだやだやだ!!! 聞こえない聞こえない!!!! ほら! 行くよ、もう!!!」

「うん、まぁいいならいいけど。」

電信柱の向こうの影に目をやりながら、店長に引っ張られていく弩来波。
言うまでも無いことだが


一人の男が人知れず涙していた。


二人でテーブルを挟んで、ほふほふとスキヤキを食べる。
鍋の中で煮込んだ肉と、生のまましゃぶしゃぶのように汁にくぐらせて食べる肉、とにかくどちらもてんこ盛りであった。

「いやぁ、賞味期限近くって安売りしてたからさー!」
肉を頬張りながら店長が幸せそうに言う。
弩来波もかなりの量を食べていた。 小柄ながら結構喰う方なのだ。

「そうだ!」
突然の店長の言葉に、同じく肉を頬張っていた弩来波がきょとんとした。

「賞味期限で思い出したって言うのも失礼だけど、二人の製造年月日っていつ?」
「え、何言ってんのこてっち? それって何かの下ネタ?」

「何でだよ!!?」

「製造年月日って、ようは父ちゃんと母ちゃんがいつセックスしたかって話じゃないの?」
「いやいや、じゃなくって…ん? 父ちゃんと母ちゃん…??
「うん。 じゃなくて?」
「あれ…? 神様って出生方法が違うって源司さんが…」
「…兄ちゃんそういう話は全然して無いんだ。 俺ら、元は普通の獣人だから。」
「そうなの!!?」

「うん。 5歳くらいの時に父ちゃんと母ちゃんに山に捨てられて、死にかけた所を兄ちゃんが神様にして助けてくれたんだよね。 で、俺らを兄弟として引き取ってくれたの。」

呆然とする。 一瞬、言葉を失った。

「捨て…られた…?」
「うん。 でも、仕方が無かったんだよ。 家は中流家庭だったと思うんだけど、会社が倒産したのかな? 父ちゃんが仕事なくなって、結構いい年だったから大変だったんじゃないかな? 双子の食べ盛りだもん、養うのがきつくなっちゃったんだね、きっと。」

「…だからって……!」

目に涙を溜め始めた店長に少し驚くも、弩来波は少し困り顔ながら微笑んだ。
「まぁ、子供の頃は色々ショックだったけどさ。 でも今は感謝してる部分もあるんだよ」

店長は無言である。 何も言葉が出てこない。

「だってさ、父ちゃんと母ちゃんがいなかったら俺ら生まれてないもん。 そしたら兄ちゃんにも、こてっちにだって会えなかった」

目に涙を溜めたまま、店長は少し俯いた。

「今、俺達幸せだからさ、だから、俺らを生んでくれた事、そこは感謝しなきゃだよ」

視線を上げると、弩来波は何も無かった様に楽しそうに肉を頬張っていた。 

母親の事を思い出す。 生んでくれた事、そこは感謝しなきゃ…事も無げにそう言える、言えてしまう弩来波が、本当に凄いと思った。 
自分が少し、恥ずかしかった。

感謝しなきゃ…か

「で、誕生日でいいの?」

店長が少し落ち着くのを見て取って、弩来波が声をかけてくれた。
「あ! うん、そう!! じゃあ誕生日あるんだ!?」
「うん。」
「いつ!?」

「9月9日」

「過ぎてんじゃん! 過ぎてんじゃーん!!!」

ダンダンとテーブルを叩いて悔しがる店長!! 妄想にいい材料を頂いてるのに発動すらしない!!!(笑)

「…一応もう一つ誕生日ならあるけど?」
「マジで!!!?」
「うん、兄ちゃんに神様にしてもらった日。 神様としての誕生日なのかな」
「いつ!!?」

「11月16日」

11月16日!!? い…良い色…!!!? もわもわ…

「って!!! 妄想してる場合じゃない!! 明日じゃん!!!」



鳥居の向こうの景色が揺らぎ、波威流が出迎えてくれていた。
「どしたの? こんな夜中に急に」

話しながら、鳥居の向こうでおいでおいでしている。
「良いの? 入っちゃって…? お客さん…って事は神様が来てるんじゃ…」
「平気平気。 もういないから。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「まさか…追い出したりしてないよね…?
「まぁそれはそれとしてさ」

否定しねぇよ!!!!!

「何か急ぎの用事?」

とりあえず持ってきたタッパを渡す。 中には肉(おおよそ全体積の7割)と野菜が入っていた。 先程のスキヤキである。

「え! くれるの!!? まだあったかいじゃん! やった!!!」
嬉しそうに笑う波威流に、弩来波が耳打ちした。
「それだけなら美味そうにも見えるだろうな…」
「何が?」
「俺がそれの何倍食わされたことか…。 しかも後半は巻きで行くし、それでも『締めはやっぱりおじやだよね!』とか言って米ドバドバ入れるし」
「美味そうじゃん」
「その後とろけるチーズ入れたんだぜ? リゾット風のほうが美味しいんじゃない?と言い出した時は耳を疑ったよ」

波威流は思いっきり爆笑した!

「笑い事じゃねぇって…もう重い重い…。 こてっちってさ、本当に詰めが甘いというか…」
「あれだよね。 順調に交際を進めていって、最後のセックスで失敗するタイプだよね。」

「そういうお話は本人がいない所でしなさい」

「て言うか、これの為にわざわざ来てくれたの?」
「いやいや、二人とも目を瞑って!」

「(…何?)」
「(さぁ、俺も良くわかんない)」

ヒソヒソ話しながら、二人とも目を瞑った。
店長は持ってきたカバンをごそごそすると、二人に腕を回した。
?マークの二人に、ちょっと待ってと懐中時計を取り出して見る。

チッ チッ チッ

カチッ

「良いよー!! 目ぇ開けて〜!!!」

二人共ゆっくり目を開けると、二人の首には

マフラーが巻かれていた。

波威流が赤、弩来波がオレンジである。
「色…違うんだ」
二人共、その部分が意外だった。 こういうプレゼントなら、普通に考えるとお揃いではないだろうか?

「うーん、自分の中で波威流は若干熱血派、弩来波はちょっとおっとり型ってイメージなんだよね。 だからイメージに合わせて色変えたんだけど…」

「俺らの違い…わかるんだ…」

顔を少し赤くしている波威流に
「見た目は全然わからないくせにね」
と弩来波が茶々を入れた。 

「見た目は絶対わかんないよー!! お前ら似すぎだもん!!! あぁ、本当はマフラーに名前とか模様とか入れたかったんだけど、編むのって難しくて…」

「手編みなんだ!!」
「こてっちってそういう女性的な技、得意そうなのにな」

「え、そう? 何で?」
波威流の一言に店長が疑問を抱くと

「だってこてっちホモじゃん」

「お前ら…」

バレバレでした。

双子は楽しそうにしながら、視線を交わした。
「いいよね?」
「うん、こてっちならいいよね」

「何が?」

不思議そうにしている店長にちょっと待っててと言い残し、二人共旅館の裏の工房に消えた。
戻ってくると、波威流が手に何かを持っていた。
それは腕時計のように見えた。 だが、時計があるべき部分に鷹か鷲か、鳥のアクセサリーが付けられている。 どうやらリストバンド的なものらしい。

波威流から受け取ると、左手首に付けてみる。
「これ…時計じゃないんだ?」
「そうだね」
「この鳥の部分が時計になったりしないんだ?」
「…こてっち…本当にそういうのしたこと無いんだね」

こういうファッションのみの、何の機能も無いものを体にしたことがない店長はすっかりテンションが上がってしまった! うわーうわー!を連呼し、腕を空に掲げてみたりしていた。

「格好良いなぁ!! てかこれ、変身とか出来そうじゃない!!?」

ギクッ!!

「…え、変身? も、もっとこうさ…他に何か無いの?」
「いやいや! これはもうどう見ても変身アイテムでしょ!!! こう腕をかざして…」

バッ!

「変身!!! なーんて!」

カッ!!!

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


ボフーン!!!!!

もふもふ神・爆誕!!!

「…プッ、ふりちん」

ミシッ!

「おぉおーい!! 弩来波っ、空気読めよ!! 只でさえこてっち租チンな事気にしてるんだから!!!」

ミシミシッ!!

「え、でも結構大きくなってるじゃん」
「いやいや、もっとマクロ的な視点で見なければいけないぞ? ほら、全身がもっとでっかくなってるから、相対的に見ればいつもよりさらに租チンになっているではないか。」
「成る程!! 確かに!!! また一つ賢くなったよ!!!」

「おっ…」

ブツン!!!

「お前らぁあああああ!!!!!」

キャー!!

ボガァアアアアアン!!!!!



「…ほらほらこてっちー! 俺らもフリチンフリチン!!」 
「うるさいデカチンコ共!! 全裸なんて全然恥ずかしがらないくせにっ!! もうマフラーやんない!!!」
「じゃあさ! 俺らの取って置きの芸を見せるから、そしたらマフラー返してー!」

「芸って、どうせ『勃起前・勃起後』だろ…?(ドキドキ)」


「はぁ…っ、だ…駄目だよ弩来…波! 俺達、同性で…兄弟で…ふ、双子なの…に」
「同性の双子だからこそ、だろ? ほら、ここがこうしたら良いって、わかってるんだぜ?」
「んっ…!!」

「へへ…良い声出すじゃんか、兄貴? ホラ、もうガチガチだろ…?」
「もう…やめてくれ…っ! み、見られてるのわかってるの…か…!!」
「あぁ、だから兄貴も俺も…こんなに先走ってるんだろ?」


その後店長が全面降伏するのに、数分とかからなかったという。
理由は簡単。 店長のビッグバンエクスプロージョンしかけたからである(笑)

「本当、お前らには敵わないよ…」
3人が共に目を合わせ、そして3人一緒に笑った。


結局、「神様の力を自由に使える」リストバンドは、「鳥居を自由に出入りできる」機能に限定する事でようやく店長に受け取ってもらえた。 「ほら、俺らもいちいち出迎えなくても良くなるじゃん」という言葉に、店長も納得したようであった。
双子にしてみれば、大好きなこてっちへの心のこもったプレゼントだったのだが、
「いらないよ、そんな危ない機能!! て言うか、俺神様じゃないし、何かズルいじゃん!」
と、一蹴されてしまった訳だ。

店長が鳥居に触れると、向こう側の景色が揺らいだ。
そのまま鳥居をくぐり、振り返って二人に手を振る。
二人も笑顔で返すと、店長の姿はそのまま向こう側へと消えた。

「本当、変わってるよね。 こてっちって。 神様の力『いらない』だって」
「ズルいとか、そういう発想ってどこから出てくるんだろ?」
二人は顔を見合わせて、楽しそうに笑った。
ああいうこてっちだからこそ、二人は彼を好きになったのだろう。

夜空を見上げると、澄んだ空気の向こうに満天の星空が瞬いていた。
こんなにも空気が澄んでいるのは、気温が随分と低くなってきたからである。

もうすぐ冬がやってくる。

かつて二人の命を奪おうとした、天狗山の冬。
だが今は、あまり寒さというものを感じなくなっていた。

それは二人が神様になったからだろうか
いや、違う。 そう、きっと   違う

「なぁ、波威流」
「ん?」


「暖かいね」


「うん。 暖かい」


おしまい

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